令和6年4月1日より、いよいよ相続登記が義務化されます。
一定の期間内に相続登記を行わなければ、10万円の過料が科せられるというペナルティーも設けられます。
これにより、これまで以上に相続登記を行う人が増えるのは間違いないと思いますが、本当は、義務化どうこうよりも、相続登記を放置してはいけない、より切実な理由があります。
今回の記事では、その理由について説明します。
相続登記は早めにすべき2つの理由
相続登記を早めにすべき理由として、法的には、遺産分割協議後の二重譲渡の問題などもありますが、現実的には、次の2つの問題の方が大きいと思います。
非協力的な相続人の出現
相続発生直後は、親族が集まる機会も多く、相続人の多くは相続手続きについても、わりと協力的だということはよくあります。
しかし、例えば、自分が不動産の新たな名義人になるわけではない相続人は、時間の経過とともに、手続に非協力的になっていくことも少なくありません。
これまで私が取り扱ってきた事案の中にも、別に遺産分割協議の内容に反対しているわけではないが、自分には特にメリットはないので、手続自体が億劫でなかなか動かないという人はいました。
面倒な手続きは、みんなが協力してくれる間に、早々に済ませてしまうのが良いということでしょう。
増え続ける相続人
相続登記を放置してはいけない最大の理由は、相続人がどんどん増えていくことです。
長期間放置すると、相続人の中にも亡くなる方が出てきます。すると、その人の相続人も、最初の相続についての権利を持つことになります。
これが繰り返されると、相続人の数は一気に増えていき、しかも、徐々に最初に亡くなった方との関係性が遠ざかっていきます。
以下、この点について具体的に説明します。
数次相続の恐怖
数次相続というのは、ある人が亡くなった後、その相続人の中の誰かが亡くなることです。二次相続とも言います。
この数次相続がどれほど恐ろしいものか、以下の家系図を使って説明していきます。
第1の相続
最初にX雄が亡くなって、まず第1の相続が発生したとします。
この段階での相続人は、妻のY代と息子のA介です。
X雄名義の自宅があり、Y代とA介が話し合って、Y代が単独で相続することになりました。
本来はここで相続登記をすべきところなのですが、A介は、相続登記の費用を節約するため、また、少々面倒くさかったこともあり、そのまま放置することにして、Y代が亡くなった時に、まとめて自分の名義にしようと考えました。
なので、特に遺産分割協議書なども作成はしていませんでした。
第2の相続
ところが、ほどなくしてA介も亡くなって、第2の相続が発生しました。
A介の相続人は、妻のB美と母のY代です。
相続人は、被相続人の地位を引き継ぎますので、B美は、X雄の相続人というA介の地位を引き継いだということになります。
この時点でのX雄の相続人は、妻のY代と、亡き息子の妻のB美ですが、Y代は大変優しい性格で、A介が亡くなったことでひどいショックを受けているB美に、相続登記のことを言い出せませんでした。
第3の相続
心労による衰弱がひどく、A介の後を追うようにB美が亡くなり、第3の相続が発生します。
B美には子どもがなく、また、両親も既に他界していたため、相続人は兄のC郎だけです。
ということは、C郎は、X雄の相続人というA介の地位を引き継いだB美の地位を、さらに引き継いだということです。
この時点でのX雄の相続人は、妻のY代とC郎であり、この二人はこれまで数度顔を合わせたことがあるだけで、ほとんど話をしたこともないという関係でした。
Y代は、ここまで相続登記をしてこなかったことに関し、後悔し始めていたのでした
最後の相続
そして、今度はC郎が亡くなり、第4の相続が発生してしまいます。
C郎の相続人は、妻のK子と息子のT哉です。
X雄の相続人というA介の地位を引き継いだB美、そのB美の地位を引き継いだC郎、妻のK子と息子のT哉は、そのC郎の地位を引き継いだわけです。
この時点でのX雄の相続人は、妻のY代、C郎の妻のK子と子供のT哉ですが、Y代はK子とT哉とは全く面識はなく、存在すら知りませんでした。
遺産分割協議書への署名捺印
Y代は絶望的な気分になりましたが、今、自分が住んでいるX雄名義の自宅だけは守らなければならないとの思いを強くします。
そこで、昔、A介と話し合って決めたように、X雄名義の自宅を自分の名義に変更しようと考えましたが、そのためには、遺産分割協議書が必要です。
X雄が亡くなってすぐの時なら、遺産分割協議書には、Y代とA介の署名捺印があれば良かったわけですが、A介は既に亡くなっています。
こういった場合、A介の地位を引き継いだB美の署名捺印が必要になるのですが、そのB美も既におらず、B美の地位を引き継いだC郎も他界しています。
となると、遺産分割協議書には、Y代の他に、C郎の地位を引き継いだK子とT哉の署名捺印が必要ということになります。
親族ですらない相続人
K子にしてみると、夫のお姉さんの旦那さんの母親など全く面識もなく、なぜそんな人のために、署名捺印をしなければならないのか?と考えたとしても、何ら不思議ではありません。
法律上の親族とは、6親等内の血族及び3親等内の姻族ですので、K子やT哉にとって、Y代は親族ですらないのです。
T哉から見れば、Y代はお祖母ちゃんではなく、ただのお婆ちゃんにすぎません。
もしY代に兄弟姉妹がいないとすると、このままY代が亡くなた場合、X雄の自宅はK子とT哉のものになるわけです。
K子とT哉にすると、全くの見ず知らずの人の不動産が手に入るという、おそろしくラッキーな状態と言えます。
K子たちがそれを期待している場合、Y代が遺産分割協議書へ彼女らの署名捺印をもらおうとするならば、少なくとも相当な金額のお礼金は覚悟しなければならないでしょう。
まとめ
なぜ、相続登記を放置してはいけないのか、おわかりいただけたと思います。
そして、ここで紹介した事例は、何も極端な話ではありません。
相続登記の手続を始めたものの、依頼者が考えていたよりも相続人の範囲が広がっていき、結局は遺産分割協議書への署名・捺印がもらえず、手続が頓挫したという事例もよくあります。
特に、相続人に高齢者がいる場合には数次相続が発生しやすいので、速やかに相続登記を行うのが賢明です。